王子様はハチミツ色の嘘をつく


たどりついた食券販売機の前で、ピッと日替わりランチのボタンを押した涼子さんは、出てきた券を取ると、少し切なそうに微笑んで答えた。


「もちろん。だって私この歳で独身なのよ? 自分から獲物仕留めに行かないと、あっという間に寂しいアラフォーになるわ」

「……まさか。涼子さんみたいな美人、引く手あまたじゃないんですか?」

「あはは、美人だなんてありがとう。でも、どうも秘書課は“高嶺の花”的なイメージがいちゃってるらしくて、声を掛けづらいんだって。同期の男友達に聞いた」

「へえ……」


高嶺の花……か。私以外の皆さんは、確かに綺麗で仕事もできて、隙がない感じがするもんなぁ……。

そんなことを考えながら、私はチキン南蛮定食を選んで、二人でトレーを持つと料理の出てくる窓口に並んだ。


「美都ちゃんは、社長と上手く行ってるの?」

「へ? わ、私のことはいいじゃないですか……!」


意表を突かれて、声が裏返る。


「許嫁も出現してピンチなんでしょ? あの蜂谷華乃っていうお嬢様、秘書課で相当騒いでたから、盗み聞きする気なくても勝手に聞こえて来ちゃった」


華乃……そんなに騒いでたのか。

ということは、社長の気持ちはどうあれ、華乃は彼とどうしても結婚したいんだろうな……。

そのことを考えると、まだおかずの乗っていないトレーが、急に重たくなる。



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