王子様はハチミツ色の嘘をつく
「……え?」
い、今のは聞き間違いだろうか。
会社のトップともあろうお方が、セクハラまがいの発言をしたような……
「聞こえなかったんですか? あなたが壊したトパーズは、あなたの年収を全部はたいても弁償などできない、高価な物でした。ですから、体を使うほかないと言ったんです」
「ねっ、ねね年収――!?」
下っ端の庶務課OLと言ったって、今年で六年目よ……?
少しずつだけど昇給はしているし、毎月コツコツ貯金ができるくらいの稼ぎはあるはずだけど……それを一年分差し出しても足りないってこと!?
急にめまいに襲われ、足元がおぼつかなくなった私の腕を、社長が咄嗟につかんで無理矢理にまっすぐ立たせた。
なんてひどい人。倒れさせてもくれないなんて……
「も……もうどうにでもしてください。二十八年間、誰にも触れられなかった体ですから、無価値に等しいと思いますけど……」
お父さん、お母さん、ゴメンナサイ。
私が穢れてしまっても、娘として受け入れてくれますか……?
気分はもはや身売りされる少女で、私が心の中で両親への謝罪を済ませていると。
「……ああ、そういう面の心配なら大丈夫ですよ。花嫁修業のプログラムに組み込んでありますから」
「……花嫁……修業?」
「ええ。でもまずは、仕事の話からしましょう」
そういって私の腕をパッと話した社長が、目の前の扉を開けて、中に入るよう促した。
私は目を瞬かせて必死で状況を整理しようとするけど、何もかも全然つながらない。
ただ流されるようにして、部屋の中に一歩足を踏み入れる。
すると、そこは私たち一般社員が使っているオフィスとは雰囲気の違う、高級感にあふれた机や椅子、応接セットが並んでいた。
……わー、いかにも社長室って感じ。