王子様はハチミツ色の嘘をつく
「それから、順調に成長した僕ですが、小学校高学年のある夜、泣き虫な女の子に出会って……彼女に、恋をしました」
「それって……」
問いかけるような視線に、彼はうなずく。
「きみですよ、美都。……でも、僕はきみの“王子様”ではありません」
「え……?」
予想していなかった言葉が飛び出し、私は首を傾げた。
東郷社長は、私の初恋の王子様ではない……?
今まで何度も思い出そうとしてきた、あの日の記憶をもういちど辿るけれど、やっぱり、詳細までハッキリと思い出すことはできない。
うう……年齢と主に、脳みその皺が減ってるみたい。
「思い出せないのなら、教えてあげます。でも、約束して欲しいんです……僕の正体を知っても、僕から離れないと」
切実な瞳を向けられ、私はしばらく考える。
最初はたしかに、運命的な出会いにときめいて、一生彼の側にいると約束を交わした。
それから彼を少しずつ知る度に、初恋の人と彼との違いが気になってきて、気持ちが落ち着かなくなって……。
それでも、突然現れた許嫁――華乃には譲りたくない、なんて、強く思って。
それって、つまり……
この想いは、初恋を超えているってことだよね――?