王子様はハチミツ色の嘘をつく


「どなただったんですか?」

「深見です。……そんなことより時間がありません。美都、ワンピースのファスナーを自分で下ろせますか?」


そんなことを言うなり、さっき緩めていたネクタイを今度はシュルリと外す社長。

何してるんだろう? っていうか、ファスナーを下ろすって?

ぽかんとしながら考えている間に、彼はシャツのボタンを真ん中くらいまで外し、胸元がセクシーにはだけた姿で私の手首を掴んだ。


「ちょちょ、ちょっと、急になにしてるんですか!」


パッと目を逸らして焦る私に、社長は美しい顔を接近させてくる。

同時に背中でジジ、とファスナーが下ろされる感覚があって、ワンピースの肩が浮いてくる。


「説明はあとです。ま、あとものの数十秒でわかりますよ」

「数十秒……?」


尋ねているうちに背中からソファに倒され、その上に覆い被さった彼は、私の耳元に唇を寄せると、吐息混じりに囁いた。


「きみの得意な、“困った顔”をしていてください。それが一番悩ましげで効果的です」

「い、意味が全然わかりませ……ひぁ!」


み、耳噛まれた……! 痛いような、そうでもないような、何とも言えない感触。

私今、絶対に、困った顔してます……!




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