王子様はハチミツ色の嘘をつく
社長はその後も耳から首筋にかけて、音を立てながらキスを落としていく。
恥ずかしくてどうにかなりそう……。
ぎゅっと目を閉じながらも、なんとなく体の奥が疼くような感覚にドキドキしていると、突然社長室のドアがバタンと開いて、私は思わず音のした方に顔を向けた。
な、なんでノックもなしに……!
「……困りますね。今から、というところで邪魔をされるのは」
顔にかかっていた前髪をかきあげ、ソファから降りた社長がドアに近付いて行く。
私は身体を起こし、中途半端に脱がされたワンピースから覗いた肩を隠すように両手で自分をかき抱くと、ドアの前で社長と対峙する女性に目をやった。
「華乃……」
ぽつりとその名を呟くと、こちらを向いた彼女と目が合う。
すると彼女は子供のように頬を膨らませながら社長の脇を素通りし、ずかずかと社長室に入ってきた。
かと思えばソファに飛び乗り、私の肩をがしっとつかんで揺らしながら言う。
「譲ってって言ったのにどうしてそんなことになってるのよ~! 美都、昔は静也さんのことキライだったじゃない!」
「え……?」
私が、社長をキライだった……?
思っても見ない言葉だったけれど、なんとなく胸がざわざわ乱れる。
黙って考え込んでしまう私に、華乃は言い聞かせるような口調でこう続けた。
「パーティの日、静也さんが散々美都に意地悪して泣かせるもんだから、言ってたじゃない。“私、あの男の子キライ”って」
――頭の中で、今まで断片的だった記憶が、パズルのピースのように嵌っていく感覚がした。
もしかして、東郷社長の正体って……。