王子様はハチミツ色の嘘をつく


「……これから、同じことを僕の口から話そうとしたところですよ。でも、美都はさっき約束してくれました。僕が何者であろうと、僕のそばを離れないと」


乱れていた衣服を直し、ジャケットに袖を通した社長が向かい側のソファに脚を組んで座る。

あ、わ、私もファスナー! ……って、社長が下のほうまで下ろし過ぎてて、手が届かない!

無理矢理後ろに回した腕のせいで肩が変な風に痛くなって、ひとり挙動不審な動きをする私を無視して華乃が不平を漏らす。


「ホントに相思相愛になっちゃってるってこと?……でも、私だって、静也さんと結婚したいのに」

「きみが結婚したいのは僕自身ではないでしょう」


呆れたような口調の彼に、華乃はぼそぼそと答える。


「……そんなことないです。一応、見た目もタイプだし」

「一応、というところに下心が見え隠れしているじゃないですか。いや、むしろ見え見えと言うべきか」

「しょうがないじゃないですか! 結婚は打算です!」


高らかに宣言した華乃に、私はぽかんと口を開けてしまう。なんて潔い……というか、身も蓋もない言い方を。

良く考えたら二人は許嫁同士だもんね……。やっぱりそこには政略結婚的な意味合いがあるのかな。お金持ちの世界のことはよくわからないけれど。


「打算的なことを悪いとは思いませんが、それを堂々と口にするきみには魅力を全く感じません。だから結婚はしません」

「そんな! 私、どうしても欲しいんです! 東郷家の財産と美形遺伝子!」

「他を当たって下さい」


社長が冷たくあしらえば、華乃はむくれて黙り込む。

話に割って入るなら今がチャンス……!


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