王子様はハチミツ色の嘘をつく
「あの! 昔、私たちが会った日のことですけど……!」
私は声を上げ、宙ぶらりんになったままの、過去の話を再び持ち出す。
社長が“彼”であるなら、聞きたいことがたくさんある。
あの日あった出来事を完全に理解するには、まだ情報が足りないよ……。
「……ああ、そうでしたね。いいでしょう、教えてあげますよ」
「待って!」
焦ったように社長を制したのは華乃だ。彼女は神妙な面持ちで、社長に話す。
「そのこと、私の口から美都に話させて下さい。……静也さんは信用できません」
「心外ですね。なぜです?」
「……静也さん、ときどき“嘘つき”だから」
鋭い口調で言い放った華乃に、社長は何も言い返さずに目を伏せた。
……図星ってことだろうか。
確かに、私もここ数日で、彼には色々と騙されているんだっけ。
その嘘にさえ、私は心を乱されて、彼に堕ちていく一方なんだけどね……。
「わかりましたよ。今回のことに関して嘘をつくつもりはありませんでしたが、それできみの気が済むなら、どうぞご自由に」
無表情でそう言い、自分のデスクに向かう社長の背中に、華乃は頭を下げる。
「ありがとうございます」
そして私に向き直ると、申し訳なさそうに切り出した。
「……そういうわけなんだけど、私、これからちょっと用事があるの。夜、会えないかな?」