王子様はハチミツ色の嘘をつく
「そういうのは、まだ一度も」
小さく首を振ってこたえると、華乃が眉根を寄せる。
「え? 社長室であんな大胆なことに及ぼうとしておきながら、一度もデートしてないの?」
「大胆なこと? あ、あれは社長がわざと……!」
って。これ、華乃に言わない方がよかったのかな。
でも、さすがに社長室で“そういうコト”をしようとしていただなんて誤解されたくない。
……キスは、しちゃったけど。
「ははーん。意地悪な静也さんの考えそうなことだね。っていうか美都、それならまだ付き合って日も浅いんじゃない?」
“付き合おう”とかそういう言葉はなかったけれど、数えるなら秘書になることを約束した日からかな……。
私はいちにいさん……と指を折って数える。ええっ、まだ三日だったっけ?
「まだ、三日だ」
「なーんだ。じゃあ、まだまだ私の入る余地ありそうだね」
安堵したように言われて、私の表情が固まる。それに気づいた華乃が、取り繕うように口を開いた。
「あのね、美都。私はただ静也さんを奪おうってわけじゃないんだよ。美都に相応しい相手を知っていて、その人を紹介したいの」
「相応しい相手……?」
「そう。……だって、あの日の美都は、彼にすごく懐いてたから」