海は悲しきものがたりいふ
今日もさびしく物おもへとや
気づいたら、自室のベッドだった。
……彩瀬は?
起き上がろうとして、激しい頭痛に襲われた。
頭いった~い!
まさか、本当に酸欠になったのかな。
うーん。
時計を見ると、午前1時。
そっとベッドから降りて、再び彩瀬の部屋へ向かった。
……内側から鍵がかかっていた。
嘘!
彩瀬が私を拒絶してる。
私はとても立っていられなくて、へなへなと廊下に座り込んだ。
「彩瀬……」
いや!
あきらめきれず、私は勇気を奮い立たせる。
久しぶりに窓からの侵入を試みる。
マンションの二階だし、以前はよくやってたし、大丈夫!
怖じ気づく心を奮い立たせた。
……え……。
彩瀬は、窓に鍵をかけているだけじゃなく、カーテンまで引いていた。
窓をドンドン叩いたけれど、中からは何の反応もなくて……。
ショックで私は、めまいを起こした。
手の力が抜けて、滑り落ちてしまった。
……前に彩瀬が落ちたこと……あったっけ。
あの時の彩瀬のように私も骨折すればよかったのに……どこまでふてぶてしくて強いんだろう、私。
落ちる直前に両手で窓枠を掴めたからだろうか。
あまり高くない位置からうまく両足で着地できでしまった。
たいした音もしなかったらしく、彩瀬も両親も気づきもしていない。
……勢い余って尻餅はついた。
お尻は、しこたま打った。
両手もついたので、てのひらをすりむいた。
……でも、それだけ。
私は、土の上に座ったまま、笑えて笑えてしょうがなかった。
笑いながら、泣いた。
何なんだ、これは!
滑稽すぎるだろ。
お尻とてのひらはズキズキと痛むのに……私はどこまでも1人だ。
彩瀬に拒絶されて、本当に1人なんだ。
翌朝から、彩瀬は私を避けた。
両親の前では特に変わった様子を見せなかったが、明らかに私は拒絶された。
一緒に歩いていても、微笑みどころか、私を見てすらくれない。
私は、存在していないも同然だ。
放課後、彩瀬の高校へも行けなくなってしまった。
……どうせ行っても、彩瀬は来てくれない。
ずっと待ってたら、頼之さんが声をかけてくるだろう。
今、頼之さんに優しくされたら、私は……自分を保つ自信がない。
ほんの少しの愛情にも飢えているのを自覚していたから。
碁会所へも行けなくなっちゃった。
受験勉強、という柄でもない。
ぼーっと三宮をうろついて時間をつぶす。
セーラー服だと補導されそうなので私服でうろついたけど、大学生のしつこいナンパがうざくて、結局とぼとぼ歩いて帰路につく。
何やってんだか。