海は悲しきものがたりいふ
天にはとがも偽りもなし
翌日もその翌日も、期末テスト真っ最中も!

テストが終わって頼之さんのサッカー部が再開するまで五目並べを楽しんだ。


しかし勝てない!

どうしても、頼之さんのほうが先の先を読んでいる。

何とかして勝ちたくて、私は提案してみる。


「エア五目並べ、しよっか。」

「エア?目隠し将棋みたいなもんか?」

「そうそう。脳内五目並べ。」


一度やってみたかったけど、今まで誰も付き合ってくれなかった。

頼之さんなら出来はりそうやし、ミスらんように慎重にならはったら勝てるかも!


「でも将棋盤より碁盤のほうが目も多いから普通はせんやろ。」

「うん、19路やね。でも出来るよ。『白ハチナナ』『黒ハチハチ』とか、口で言うてくの。」

「……ちなみに、連珠では19道って呼ぶ。まあ、そもそもほんまの連珠盤は15道やけどな。」

今更そう教えてくれる頼之さん。


「だから連珠じゃなくて五目並べって言うてると思ってた。連珠盤のほうがいい?」

「いや。どっちでも。あおいの馴染みのあるほうがいいと思って。」

……そんな風に思ってたのか。


私は自分が勝てそうな方向へ持っていこうとしていたことを恥ずかしく感じた。



エア五目並べは便利だった。

盤や碁石なしでできるので、歩きながらでも、いつでもできる。

クリスマスに親からスマホを渡されてからはチャット囲碁も始めた。


両親は、やっと私が兄離れしたと安堵し、いつになく穏やかに接してくれていた。


ただ、彩瀬は様子がおかしいように見えた。

酒臭くも赤くもないのに酔っぱらってるように見えることもあった。

元々食の細い人ではあったが、胃が荒れているのかほとんど食べてないようだ。

いつか彩瀬が倒れてしまいそうで、心配だった。



冬休みは、頼之さん曰くサッカー天国らしい。

日々の練習や設定した練習試合はもちろんだが、大晦日から「選手権」と呼ばれる高校サッカーの全国大会がテレビ放映されるのだ。

自称本気でインターハイを目指している頼之さんは、全試合を録画して研究に余念がない。


当然のように私もしょっちゅう呼ばれた。

サッカー部にはちゃんと女子マネージャーが大勢いるので、そういう意味でも私は入って行きづらい。


が、頼之さんは練習試合の度にわざわざ私のために折り畳みチェアに座布団カイロを設置して迎えてくれたし、必ず自分の着てるベンチコートを貸してくれた。

どこからどう見ても大事な彼女扱いをされていたが、私もそれを楽しんでいた。



冬休みが終わると、受験が目前に迫った。

相変わらず私は受験勉強はしてなかったけれど、ずっと頼之さんと五目並べや囲碁をしていたせいか、頭が冴えていた。


直前の全国模試では驚異の高得点だったので、総代も余裕で取れそうだ。


私はいつも通り適当に授業をサボっては、碁会所や、頼之さんに教えてもらったコーヒーの美味しい喫茶店に入り浸った。
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