海は悲しきものがたりいふ
天然芝の大きな会場に着くと、ちょうどサブ会場で対戦相手がアップしているのが見えた。
なるべく太陽も風も当たらなさそうな前方に両親と彩瀬を座らせて、私は双眼鏡で相手チームを見る。
全国大会に何度も出場している強豪校なので半年前に何度もチェックした学校だ。
もちろんレベルアップしているけれど、1年生は加わってないようだ。
つまりメンツは変わってない。
しばらく見て、故障を抱えてそうな選手、控え選手の情報を頭に追加して、いくつかのルートと定石を結びつけた。
メインスタンドに戻り、頼之さんを探す。
いたけど、遠い~。
たまたま目の前にいたクラスメートでもある佐々木に声をかけた。
「佐々木-!頼之さん、呼んで-!急用!早く!」
佐々木は飛び上がってこっちを見た。
「吉川びっくりした~。今?」
「急用やゆーとるやろーが!早よーっ!急げ!」
佐々木は首をかしげながら頼之さんのところに走った。
頼之さんは、血相を変えて飛んできてくれた。
「どうした!?吉川に何かあった!?」
彩瀬を心配してくれてる頼之さんに、涙が出そうになった。
「ううん、彩瀬は大丈夫。ちゃんとあそこで観戦してる。」
私はスタンドを指さした。
明らかにホッとした頼之さんに、早口で試合の対策を伝えた。
頼之さんは真剣に聞いてくれて、頷いた。
「ほな、ディフェンダーに下がるか交代やな。ありがとう!焦らんと機会を待つわ。あ、あおい、試合終わったら決勝戦の相手の試合のディスク渡すから、待ってて。」
え?
「あ、相手さんはもう決まってるんや。」
「ああ。今日の11時から試合やった。相手、あおいの行動範囲外から来よったから、頼むわ。」
ちょっと驚いたけど、頼之さんは今日の全国大会常連校に本気で勝つつもりだ。
何だか胸が一杯になった。
「わかった。待ってる。勝っておいでや。」
「おー!俺には勝負の女神がついとーからな!絶対勝つっ!」
頼之さんは、周囲の部員に聞こえるように大きい声でそう叫んだ。
そして走り去ろうとした私の手を掴むと、耳元に口を寄せて小さい声で言った。
「走るな。あおい、妊娠してるんやろ。スタンド寒いから俺の上着持ってけよ。」
何の話?
驚いて振り返る。
頼之さんは、自分の着ていたジャージを脱いで貸してくれた。
目も口も開けて、ボーッとしていることに気づいて、思わず自分の頬を軽く叩いた。
「びっくりするやん!何の話しとーねんな!」
「俺の気のせいか?いや、そんなことないやろ。検査して病院行ってみぃ。」
自信たっぷりな頼之さんの言葉に、私は生唾を飲み込んだ。
確かに、ずっと生理はない。
ずっと食欲がなくて、ずっと熱っぽくて、ずっとよく眠れなくて、ずっと日中眠くて……。
そう言えば、痩せたはずなのにスカートが苦しい。
私は、恐る恐るお腹に手を当てた。
中から小さな衝撃を感じた気がした。
今まで気づかったダメな母を赤ちゃんが怒って蹴ったようだった。
なるべく太陽も風も当たらなさそうな前方に両親と彩瀬を座らせて、私は双眼鏡で相手チームを見る。
全国大会に何度も出場している強豪校なので半年前に何度もチェックした学校だ。
もちろんレベルアップしているけれど、1年生は加わってないようだ。
つまりメンツは変わってない。
しばらく見て、故障を抱えてそうな選手、控え選手の情報を頭に追加して、いくつかのルートと定石を結びつけた。
メインスタンドに戻り、頼之さんを探す。
いたけど、遠い~。
たまたま目の前にいたクラスメートでもある佐々木に声をかけた。
「佐々木-!頼之さん、呼んで-!急用!早く!」
佐々木は飛び上がってこっちを見た。
「吉川びっくりした~。今?」
「急用やゆーとるやろーが!早よーっ!急げ!」
佐々木は首をかしげながら頼之さんのところに走った。
頼之さんは、血相を変えて飛んできてくれた。
「どうした!?吉川に何かあった!?」
彩瀬を心配してくれてる頼之さんに、涙が出そうになった。
「ううん、彩瀬は大丈夫。ちゃんとあそこで観戦してる。」
私はスタンドを指さした。
明らかにホッとした頼之さんに、早口で試合の対策を伝えた。
頼之さんは真剣に聞いてくれて、頷いた。
「ほな、ディフェンダーに下がるか交代やな。ありがとう!焦らんと機会を待つわ。あ、あおい、試合終わったら決勝戦の相手の試合のディスク渡すから、待ってて。」
え?
「あ、相手さんはもう決まってるんや。」
「ああ。今日の11時から試合やった。相手、あおいの行動範囲外から来よったから、頼むわ。」
ちょっと驚いたけど、頼之さんは今日の全国大会常連校に本気で勝つつもりだ。
何だか胸が一杯になった。
「わかった。待ってる。勝っておいでや。」
「おー!俺には勝負の女神がついとーからな!絶対勝つっ!」
頼之さんは、周囲の部員に聞こえるように大きい声でそう叫んだ。
そして走り去ろうとした私の手を掴むと、耳元に口を寄せて小さい声で言った。
「走るな。あおい、妊娠してるんやろ。スタンド寒いから俺の上着持ってけよ。」
何の話?
驚いて振り返る。
頼之さんは、自分の着ていたジャージを脱いで貸してくれた。
目も口も開けて、ボーッとしていることに気づいて、思わず自分の頬を軽く叩いた。
「びっくりするやん!何の話しとーねんな!」
「俺の気のせいか?いや、そんなことないやろ。検査して病院行ってみぃ。」
自信たっぷりな頼之さんの言葉に、私は生唾を飲み込んだ。
確かに、ずっと生理はない。
ずっと食欲がなくて、ずっと熱っぽくて、ずっとよく眠れなくて、ずっと日中眠くて……。
そう言えば、痩せたはずなのにスカートが苦しい。
私は、恐る恐るお腹に手を当てた。
中から小さな衝撃を感じた気がした。
今まで気づかったダメな母を赤ちゃんが怒って蹴ったようだった。