海は悲しきものがたりいふ
「やった!」
彩瀬は興奮して立ち上がった。

「あー!すごい!1点入った!」
私は彩瀬をそっと支えるように、一緒に立った。

「あと3分……守れたら、勝てる。」
彩瀬の腕を取り、じっと見守った。

頼之さんは、浮かれることなく、再び守りに徹した。
全員でボールを守り通した結果、頼之さんは本当に強豪校に勝った。

「……勝っちゃった……」
彩瀬は、ぺたっと座席に座った。

「小門くん、すごいねえ。」
「うん。すごい。ほんとに、すごい。」
私は彩瀬の横に腰をおろすと、骨の出た肩と腕に手を回してそっと支えた。

「あと1つ勝ったらインターハイ?」
「うん。あと1つ。明後日。」
「応援に来なくちゃね。」
「……大丈夫?無理せんといてな。」
両親お伺いをたてるように顔を見たけれど、2人共彩瀬の好きなように、と思っているようだった。

試合が終わった後しばらくして、頼之さんがスタンドに上がってきた。
「吉川、大丈夫か?」
「うん。小門くん、おめでとう。」
「……あと1試合あるけどな。」
頼之さんは苦笑して、両親に頭を下げた。
「遠くまで、ありがとうございました。」

それから、やっと私に手を伸ばした。
「これ、決勝相手の試合。」

私はディスクを受け取って、頼之さんにジャージを返した。
「ありがとう。ほな今夜中に見るわ。」

帰りの車の中で、父が頼之さんを褒めていた。
……まあ、私と違って、万人受けする優等生の好青年だと思うよ、うん。

彩瀬はやはり疲れたらしく、帰りの車中も私の膝で眠った。
私のお腹の前に彩瀬の顔。

またお腹の中の子供が動いた気がした。

あなたも、彩瀬に逢いたいよね。
……この子が産まれるまで、彩瀬は生きていてくれるのだろうか。

彩瀬の青白いこけた頬を見つめて、私はぶるっと震えた。


帰宅後、頼之さんから預かったディスクを見た。
ふ~ん。
今日の相手のような、個人レベルでの強さは感じなかった。
ただ、かなりしっかりチームとして出来上がっているようだ。

穴は、見当たらない。
けど、どこからでも何とか突破できそう。
攻守共に、まとまったチーム。
……さあ、どうするかな。
正攻法で力比べしても、ギリギリ勝てるかもしれない。
でも、攪乱させて、ガタガタにした上での力技のほうが確実だと思う。
頼之さんと相談して決めたほうがよさそう。


翌日、まだ彩瀬が起きる前に家を出た。
「なるべく早く帰るね!」
母にそう告げて、飛び出した。

ドラッグストアで妊娠検査薬を購入してから学校へ。
……高校の女子トイレで判定するのって微妙……と思いながらもやってみた。

結果は、しっかり陽性。

今、何ヶ月ぐらいなんだろう。
< 44 / 81 >

この作品をシェア

pagetop