海は悲しきものがたりいふ
源氏の君にまみえむ夜かな
夜、小門(こかど)家の電話が鳴った。
「あら、頼之。遅いわね。まだ帰らないの?……え?」
電話に出たお母さまが絶句した。
ちらっと私を見て、お母さまはスピーカー機能に切り替えた。
『……し、まだ帰れへんけど……』
頼之さんの声……何だか息づかいが荒い。
「まあ!あおいちゃんが!それって、家出なの?」
お母さまが私に説明してくれるようにそう言った。
『普通に家出やったらいいけど……携帯もつながらんし、思い詰めて何かしでかしたら……とにかくもうちょっと探すから。あ、充電切れ!じゃ!』
電話が切れると、ツーツーツーと味気ない音が続いた。
「……そう言えば、私の携帯、充電切れてました。」
「頼之の携帯も、今、充電切れちゃったみたい。」
私たちは顔を見合わせた。
どうしよう。
「あの……探しに行きましょうか……」
「いいわ。ほっときなさい。多少苦労すればいいのよ。」
え~~~。
結局、私は小門家の玄関先でウロウロして頼之さんを待った。
「夜風は身体によくないから、中に入りなさいな。」
お母さまにはそう言われたけれど、頼之さんに申し訳なくって!
やれやれ、とお母さまは肩をすくめて、私にカーディガンを羽織らせてくれた。
「あおいちゃんをご両親のもとに委ねておくことが、どれだけあおいちゃんにとってストレスかをわかっていながら放置しておいたことを悔やめばいいのよ。未成年と高校生ってことに甘えてるから悪いの。ぜーんぶ頼之の自業自得。」
……お母さま、厳しい……。
頼之さんが帰宅したのは、深夜0時過ぎ。
……さすがに私はしんどーくなって、毛布にくるまって横になっていた。
「ご!ごめんなさいっ!!!心配かけてしまって!」
慌てて起き上がって、そう謝った。
頼之さんは、驚いた顔から一気に脱力してしゃがみこんだ。
「無事でよかった……」
頭を両手で抱えてそう言った頼之さんに近づくと、珍しくというか、はじめて抱きしめられた。
ドキドキする。
「あの、ごめん、ほんまに。」
「生きててくれただけで、も、いい。」
頼之さんの言葉は大げさなものではなく、本気でしみじみそう言っていた。
「遅かったわね。」
2人で支え合うように家の中に入ってくと、お母さまが眠そうな目をこすりながらそう言った。
「電話した時に、あおいがここにいるって教えてくれてたら、もっと早かったよ。」
苦笑いする頼之さん。
「でも、収穫はあった。」
頼之さんはそう言って、私の肩をポンポンと軽く叩いた。
……私は収穫物?……いやいやいや。
少し非難めいた目で見ると、頼之さんはちょっと笑った。
「いや、違う違う。物扱いしてるわけじゃないから。あおいのご両親と相談して、とりあえず出産までうちで預かることにした。俺が父親になることも入籍もOKもらった。あとは、あおいの気持ち次第。」
頼之さんの言葉に、お母さまが表情を輝かせて喜んでくださった。
「えらいわ!頼之!」
……私は……喜べなかった。
確かに頼之さんがうまく説得してくれたんだろうけど、両親は厄介払いできたと喜んでるのかな、と思うと、なんかもう情けなくて。
固まってる私に気づいた2人が代わる代わる慰めてくれた。
涙は出なかったけれど、心に冷たいものが鎮座してなかなか消えてくれなかった。
「あら、頼之。遅いわね。まだ帰らないの?……え?」
電話に出たお母さまが絶句した。
ちらっと私を見て、お母さまはスピーカー機能に切り替えた。
『……し、まだ帰れへんけど……』
頼之さんの声……何だか息づかいが荒い。
「まあ!あおいちゃんが!それって、家出なの?」
お母さまが私に説明してくれるようにそう言った。
『普通に家出やったらいいけど……携帯もつながらんし、思い詰めて何かしでかしたら……とにかくもうちょっと探すから。あ、充電切れ!じゃ!』
電話が切れると、ツーツーツーと味気ない音が続いた。
「……そう言えば、私の携帯、充電切れてました。」
「頼之の携帯も、今、充電切れちゃったみたい。」
私たちは顔を見合わせた。
どうしよう。
「あの……探しに行きましょうか……」
「いいわ。ほっときなさい。多少苦労すればいいのよ。」
え~~~。
結局、私は小門家の玄関先でウロウロして頼之さんを待った。
「夜風は身体によくないから、中に入りなさいな。」
お母さまにはそう言われたけれど、頼之さんに申し訳なくって!
やれやれ、とお母さまは肩をすくめて、私にカーディガンを羽織らせてくれた。
「あおいちゃんをご両親のもとに委ねておくことが、どれだけあおいちゃんにとってストレスかをわかっていながら放置しておいたことを悔やめばいいのよ。未成年と高校生ってことに甘えてるから悪いの。ぜーんぶ頼之の自業自得。」
……お母さま、厳しい……。
頼之さんが帰宅したのは、深夜0時過ぎ。
……さすがに私はしんどーくなって、毛布にくるまって横になっていた。
「ご!ごめんなさいっ!!!心配かけてしまって!」
慌てて起き上がって、そう謝った。
頼之さんは、驚いた顔から一気に脱力してしゃがみこんだ。
「無事でよかった……」
頭を両手で抱えてそう言った頼之さんに近づくと、珍しくというか、はじめて抱きしめられた。
ドキドキする。
「あの、ごめん、ほんまに。」
「生きててくれただけで、も、いい。」
頼之さんの言葉は大げさなものではなく、本気でしみじみそう言っていた。
「遅かったわね。」
2人で支え合うように家の中に入ってくと、お母さまが眠そうな目をこすりながらそう言った。
「電話した時に、あおいがここにいるって教えてくれてたら、もっと早かったよ。」
苦笑いする頼之さん。
「でも、収穫はあった。」
頼之さんはそう言って、私の肩をポンポンと軽く叩いた。
……私は収穫物?……いやいやいや。
少し非難めいた目で見ると、頼之さんはちょっと笑った。
「いや、違う違う。物扱いしてるわけじゃないから。あおいのご両親と相談して、とりあえず出産までうちで預かることにした。俺が父親になることも入籍もOKもらった。あとは、あおいの気持ち次第。」
頼之さんの言葉に、お母さまが表情を輝かせて喜んでくださった。
「えらいわ!頼之!」
……私は……喜べなかった。
確かに頼之さんがうまく説得してくれたんだろうけど、両親は厄介払いできたと喜んでるのかな、と思うと、なんかもう情けなくて。
固まってる私に気づいた2人が代わる代わる慰めてくれた。
涙は出なかったけれど、心に冷たいものが鎮座してなかなか消えてくれなかった。