海は悲しきものがたりいふ
力のかぎりひと時を咲く
三年が過ぎた。
光は、彩瀬によく似た天使のような外見と同時に私の頭脳を兼ね備えた稀有な子に育っている。
頼之さんが調子にのって英才教育を施すので、本気でどこぞの研究機関からの引き合いが怖い状況だ。

それに、誰も何も教えていないのに、頼之さんが実の父親ではないことに気づいているらしい。

「光に彩瀬のこと吹き込んどーのって、やっぱりうちの両親やんなあ?あんまり中途半端に知ってしまうと可哀想やしやめてほしいのに。」
「……俺もそう思っとってんけどな……光と会話が成立するようになってからは気をつけてたらしいで。まあ、あおいと同じで光が驚異の記憶力で覚えてるのかもしれんけどな……」

光を幼稚園に送り届けたあと、2人で買い物をしながらそんな話をする。
ここ京都には先週引っ越してきたばかりで、食料以外にもまだまだ買い揃えたいものがいっぱいある。

「光の目ぇにな、信頼感と尊敬と感謝が見えよーねん。三歳児のくせに。なんも考えんと甘えてほしいのに。」
確かに光は、心から頼之さんのことが大好きで懐いているようでいて、ワガママの一つも言わずに従順に頼之さんを見上げている。

一方、私のことは「あーちゃん」と呼びたがり、四六時中くっついてくる。

「輪廻転生?彩瀬の生まれ変わり?馬鹿馬鹿しい!」
そう言いながらも、光が何を見てどう考えているのかを理解するには、それが一番手っ取り早いことにも気づいていた。

「まあ、それはそれでいいんやけどな、俺は。」
そう言いながら、頼之さんは片手で私を引き寄せた。
「これも買い足す?」
指差した先に並んでるのは、避妊具。

や!恥ずかしいってば!もう!
その場から逃げ出したいのに、頼之さんの手ががっちりと私の腰を捉えていた。

「別に俺はなくってもかまわんけど。……あおいは、また休学すんの嫌やねんろ?」
そういう言い方、ずるいと思う。

「とりあえず、光のお迎えまで……!帰るぞ!」
頼之さんは3箱つかんでカゴに放り込むと、レジへと向かった。

そんなたくさんいらんでしょっ!?

帰り着いたお家は、お屋敷の立ち並ぶ閑静な通りに面した日本家屋。
学生には分不相応な邸宅だが、家賃なし、光熱費のみ自己負担という破格の条件で住まわせてもらっている。

実は、高校で仲良くしてた由未ちゃんの嫁ぎ先のお家の1つなのだそうだ。
由未ちゃんとは高校の2年間を仲良くしてもらった……彼女が高3で東京の高校に転校するまで。

その後も、メールやなんかでやり取りを続けてはいたが、まさか由未ちゃんが高校卒業と同時に婚約するとは思わなかった!

お相手は、元お公家さんだと言うから、さらにビックリ。

……佐々木の猿に振られて、結果オーライ!だったわけだ。
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