海は悲しきものがたりいふ
ちょっと神経質なパラノイア系の婚約者は、それでも由未ちゃんにはデレデレらしく、京都のお家を貸してくださるという話にもあっさり了承してくれたらしい。

曰く、
「家は天下の廻りもの。住まないと傷みますから、どうぞどうぞ。」
……お公家さんの感覚はよくわからん。

とにかく、2人は3月末に結納を交わしたので、これからは京都に来ても由未ちゃんの実家に婚約者も一緒に泊まるらしい。

というわけで、ほぼ空き家確定のこちらを貸してくださることになった。

「しかし、これで築10年?ピカピカやなあ。」
「ほとんど誰も住んどらんうえに、結納前に畳と障子全部入れ替えてんて。」

頼之さんが頭をかいた。
「……なんか、リフォームどころか、結納もしよらんで……悪かったな。」

今更!(笑)

「いらんいらん。2人とも学生やのに。うちはうち、よそはよそ。」

私たちは、頼之さんが二十歳になるのを待って入籍した。
光の籍も移して、やっと名実ともに家族となった。

結婚式は須磨の別荘で家族だけで挙げて、知人には年賀状で知らせるに留めた。
私が高校を卒業するまで、山手の頼之さんの実家でお母さまとご一緒に暮らしていたけれど、このほど、頼之さんと同じ大学に通うことになったので親子3人で京都に住むことにした。

学費はそれぞれの親が出し、生活費は頼之さんのお父さまが月10万円、うちの実家が月5万円出してくれるらしい。
……家賃がかからないので、2人ともバイトをしなくても暮らせそうだ。

あ、光の幼稚園代はかからなかった。
IQが高いので特待生にしてくれた。

最初は1年間のつもりだったが……頼之さんは大学院に残ってでも私の在学期間4年間を京都で暮らそうと画策しているようだ。
子供を作ってさらに1年延長、とマジで考えてそうなのがまた恐い。

……とか言いつつ、2人っきりでまったり過ごせる平日真っ昼間は、かなり濃厚な行為に耽り……いつ授かっても、まあしょうがない?って感じではある。

頼之さんの体力と精力は衰えず、毎度私は翻弄されて、腰が立たなかったり、そのまま爆睡してしまう。
今日も落ちるように寝入ってしまったらしい。

目が覚めた時には、ポカポカ陽気の縁側で光と頼之さんが連珠をして遊んでいた。
いや、もう、遊びのレベルを超えているようだ。

光の連珠は、私よりはるかに強く、頼之さんと互角以上、らしい。

……はっきり、光に負けることが増えた、とは言わない頼之さんの負けず嫌いがかわいい。

「あーちゃん起きた!」

光が天使の笑顔とかわいい声でそう言った。
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