野崎兄弟のThousand Leaves(あかねいろ Thousand Leaves!番外編)
「強いねぇ…ブレイクは強い人だったように思うけど」

「オレには市江さんの方が、強く見えました」

「わたし?うふふ、わたしなんかダメ。すぐハラ立ってきちゃうの。下町のオンナはね、短気なのよ。その代わり、あとはケロッとしてるけどね」

「オレの知ってる強い人も、口なら負けないって感じで。口だけじゃなくて、実際に男にも向かってくし、つえぇって、いつも思ってました」


市江さんが微笑んだ。


「なにか怖いのね」

「怖い?」

「こわがってるのね」

「誰がですか?」

「その人よ」



茜が?

こわがってる?



「本当に強い人は静かよ。

声を荒げず、手荒なこともせず、地味で平凡で目立たない。

ブレイクがそうだったでしょ。

ふふ。ケイは私に似てたでしょ?すぐにふて腐れてね」



茜が…こわがってる…?


「春に来てほしいわ。新緑が素晴らしいわよ。でも無理かしら?天才サーファーは忙しいものね」

「色が…見えないんです」

「え?」

「大波に会うと、色が見えなくなるんです」


市江さんが、驚いたようにオレを見た。


「もしかして、あの時から?」

「たぶん」

「怖さを封じ込めちゃダメよ」

「こわくなんて、ないっす」


市江さんがカップを置いて、オレと目線を合わせた。


「心は手でつかめない。波と同じ。

だから、コントロールすることなんて出来ないの。

コントロールできるのは行動だけ。

心を開放して、どんな気持ちも自由にしてあげて。

その代わり、行動だけはするべきことをしなさい」
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