野崎兄弟のThousand Leaves(あかねいろ Thousand Leaves!番外編)
大学受験も追い込みの時期に入っていた。


こうなるともう、誰にもかまってる場合じゃない。


お金の問題じゃなく、予備校は行ってもしかたないような気がして、もっぱら大手の通信教育で勉強に励んだ。



合格を告げると、父さんはしみじみ言った。

「捨てる神あれば、拾う神あり…」


夕飯は、久々のすき焼きだった。


「ああ、国立!助かるわあ~~!」

「肉だ!」

「ただの肉じゃない。和牛だ。心して食えよ」


珍しく、優斗が不機嫌そうだ。


「俺がプロんなった時はなんもなかった」

「やったろ。なんだっけ?」

「水餃子な」

上総が嬉しそうに答えた。


「祖父さんに似てると思ってたけど、やっぱりなぁ。喜んでる!喜んでるだろ、きっと!」

すでに酔いが回った父さんが、受かれて言った。

僕のひい祖父さんという人は、帝国大学の出身で特攻隊に入り戦死している。


「おいしーい!」

「野菜。野菜から食べて」

「上総!一気に取るな!」


優斗が突然、立ち上がった。


「総史!!」


なんだ?


いきなり呼びつけ…


「俺は絶対に勝つ!」



は?



「お前にだけはぜってーーーーーー負けねえからな!!」


は?



八雲がむずがった。

「ママ、葉っぱが歯にはさまったぁ」

「楊枝があるでしょ」

「玉子とって」

「早いわねぇ」

「ボクが切った豆腐、美味しーい?」

「美味しいよー。ありがとうね」


優斗が叫んだ。

「誰も聞いてねーし!」


父さんがワインを出してきた。

「そんなの、ラプターに零戦が宣戦布告するようなもんだろ…」

「ラピュタなんかカンケーねぇ!俺は絶対に総史に勝つっ!」


闘志むき出しで、優斗が飯を食い始めた。


「座って食べなさいね」



…なんなんだ。



この世で一番解けない問題だ。


とりあえずは、

肉を食おう。
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