野崎兄弟のThousand Leaves(あかねいろ Thousand Leaves!番外編)
うそ。

手が抜けた。


ガッチリ決めてたのに。


優斗がのし掛かって来た


「が…!」



思いっきり急所に入れた。


それでも飛びかかってきた。

もう一度、急所にぶちこむ。

優斗が体を九の字に曲げて、食べものを戻す。


僕も調子が出てきた。


飛びかかって来るたびに、冷静に教科書どおりの型を決める。

もん絶する優斗を見下ろして、次を待つ。


その繰り返し。


それにしても…打たれ強いヤツだ。



また力まかせにのし掛かって来る。

その腕を取って、上体を起こす。


腕の下で優斗が苦痛に悲鳴を上げる。


「な、なんで…なんで…」


かすれた声で、僕を見上げる。


本当だ。


無惨だ。


そして、

これこそ僕の欲しかったものだ。



「オマエ、サイテーだよ…」


優斗が涙声を出す。


「何でなんだよ…なんでこんなことすんだよ…」

「お前が自滅しただけだろ」

「昔から勉強も運動もできて…親からも頼られて…!」


傷ついて、苦痛にもがいて、


「手に入んねーもんなんか、あんのかよ…!」



完全に屈服する優斗が見たかったんだ。



優斗が無理やり体を起こした。

「うわあああああああ!」


ああ今、骨やったかもな。

これ以上やると、優斗の選手生命に関わる。


「茜が…茜が本気でオマエを好きになるはずねぇっっ!」

「別にかまわない」


首を締め上げた。

「離せっっっ!!」

「気づいてたか…父さんが立ち直ってないって」

「な…?」

「あの人は娘が欲しかったんだよ。それが…死んで、まだ立ち直ってない」


ギリギリと腕に力を込めた。


「言えなかったんだよ!母さんとお前のために!だけど未だに苦しんでる…!」


父親って、損だ。


「それに茜ちゃんは気づいてた!」


あの人だって親なのに。


「だから絶対あきらめない!僕は絶対にあの子と家族になる!!」

「う…うう…」

「誰が好きでもかまわない…」

「やだ…茜は、ぜったいに…」


ガクッと腕に重みがかかった。


ようやく落ちたか。


このバケモンめ。
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