野崎兄弟のThousand Leaves(あかねいろ Thousand Leaves!番外編)
家に帰ると、神夢くんのママが来ていた。


あい変わらず、たおれそう。


ボクにまた謝ると、まだ家にいるパパに愚痴をこぼしている。


お祖母ちゃん、逃げたな。

いつも「シンキクサイのだーいっきらい!」って言ってるからね。


「うちの人はまったく家に帰って来ないもんですから、ワタシと神夢の二人だけになってしまって…」

「はあ…そうですか」

「ワタシが一人で、あの子と向き合っていかないといけないんです」

「はあ…なるほど」

「あの子のピアニストになりたいって夢を応援してあげたい。ですから、色々なコンサートに足を運んだり、ホンモノに触れさせたくて、一流のお料理を食べに行ったり…」

「それはそれは」

「だけど、こんなことになってしまって…ワタシ、いったいどうすればヨロシイのでしょう?」

「…むずかしい問題で」

「親として、息子をピアニストにするにはどうしたらよろしいんでしょう?」


冷蔵庫から、牛乳を出した。

おいしーい。


ドアが開いた。

「ダメだわ…聞いていられない…」


聞いてたんだ?


「あなたね、息子の前にまず自分の生き方どうするかでしょ」

「わ、ワタシですか?」

「あなたよ!あなた自身の生き方よ!」

「でも…やっぱり親として…子供が優先になるのは」


「うちの母は早くに父親を亡くして、歌が好きだったけど、習う余裕もないし、それで身を立てるには家が貧しかったものだから、さっさと嫁いだの。

嫁いだ先は大きな商店だったけど、忙しくてやっぱり歌なんて習ってるひまがない。

それで私たちに歌を習わせました。

ここからよ。

母は、私たちから歌を習ったの。仕事しながら、一人でも練習してた。

朝から晩まで、私たちに教わって。

私たち兄弟姉妹のうち、誰も歌手になったわけじゃない。

だけど、そういう母親の生き方っていうのは、なによりの財産ですよ。

あなたは、どうなの?

ピアニストにならなくても人間、生きていけますよ。

だけど、親が自分の生き方をしてなかったら、子供は自分の力で生きられない子になりますよ」
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