フルブラは恋で割って召し上がれ

「おねえちゃん、洗濯物持ってきたよー」

 そう言って部屋をノックして入ってきたのは、樹夫妻の娘さんの梨花(りか)ちゃん。
 高校二年生で、私が研修に来た初日から『おねえちゃん』と言って懐いてくれている可愛い子。
 高校を卒業したら東京の大学に進学する予定なので、東京から来た私の話を聞くのがすごく楽しいみたい。

 大学のことじゃなくて、雑誌で見たファッションブランドやスィーツのお店の話に花が咲いちゃうのが女の子らしくて可愛くて。
 梨花ちゃんのおかげで研修中も楽しい時間が持てたのよね。それに、梨花ちゃんにはその他のことでもすっごくお世話になったし……。

 と言うのも、私がキャリーバッグに詰めてきた服、それって出荷作業にはむいてないだろ? ってやつばかりで。

 ――だって、仕方ないよね? 動きやすい服装でって言われたけれど、まさか青森まで来て出荷作業の手伝いをするなんて聞いてないもん。聞いてたらパンツスーツなんて入れずに、ジーンズとポロシャツぎっしり詰めて来たわよ。もちろん履物はパンプスじゃなくて、運動会にも飛び入り参加出来ちゃうくらいなスニーカー履いてきたわよ。

 手荷物の中で使えるのが、下着とパジャマくらいなことに呆然としていた私に、桃子さんが梨花ちゃんに中学時代のジャージとスニーカーを貸すように言ってくれたのよね。


「また勉強? 研修、今日で最後なのに大変だねー」

 梨花ちゃんは私の隣にちょこんと座って、横に敷いてある布団の側に洗濯物を置いてくれた。

「ありがと。――果物の種類を覚えるのが大変。ちょっとの違いがわからないのが多いし、名前も色んなのがあるし」
「ふぅん」

 そう言ってテーブルの上に広げたファイルを覗きこんできた梨花ちゃん。
 一番上にあった名前が書いていない数種類のりんごの写真を見ると、ひとつひとつ指さしながら言った。

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