フルブラは恋で割って召し上がれ
 
「おねえちゃん、これ、私が作ったんだ。お仕事、頑張れるようにお守り」

 次の日、新幹線で東京に帰る私を新青森駅まで桃子さんが車で送ってくれることになっていた。
 昭夫さんは出荷作業、梨花ちゃんは学校があるから玄関先でのお別れ。梨花ちゃんが手渡してくれたのは、フェルトで作ったりんごのブローチ。

「ありがとう、大切にするね。これ、サンつがるでしょ?」
「すっごい! わかった?」
「うちのファームの目玉商品だもんな」

 梨花ちゃんと昭夫さんがそう言って笑った。まるでおひさまいっぱい浴びたりんごみたいに。

 車に乗り込み、手を振るふたりの姿が見えなくなるまで窓を開けて私も手を振り返した。
 窓を閉めた後、車の中にりんごのいい香りがいっぱいになっているのに気付いた途端、私の目から不意に涙がこぼれ落ちる。

 腕がパンパンになるくらいに、ひとつずつ宝物みたいにりんごを収穫したときのあの鮮やかな香り。それと一緒に、研修中の辛かったこと、楽しかったことがいっぺんに押し寄せてきたみたい。

 慌ててバッグからハンカチを出して目を押さえたけれど、「ひーん」って声が抑えきれずに漏れてしまった。
 運転していた桃子さんが私の頭を優しくぽんぽんと撫でてくれる。

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