フルブラは恋で割って召し上がれ
早いものでそれから四年の月日が流れ、私もリーダーに任命されるくらいには成長したんです。一人前にはまだまだ遠くて、日々修行の毎日を送っているわけで。斎藤氏とは企画会議なんかで呼ばれない限りは、最低、月イチで会うくらいだから、なんとか『外面の良さ』で毒舌をかわしまくっている。
それなのに……。
店長ってば、なんでギックリ腰になんかなっちゃうのよっ。
先月の新築マイホーム引っ越し作業のときは、あんなに動きまわってたのに何ともなかったくせにっ。
――通勤距離が長くなったから電車の移動が大変ってこぼしてはいたけど……。
店長のこと恨んでも仕方ないけど、一週間、斎藤氏と顔合わせなきゃならないと思うと、恨み事のひとつも言いたくなるってもんですよ。
「フルーツ、取ってきまーす」
同じシフトの大学生のバイトの子に声をかけて、私はカットフルーツの補充をするために店の奥にある倉庫へ向かった。
「えーっと、メロンとキウイ……、それからオレンジっと……」
「夏目さん、退社後の予定は?」
倉庫の中で果物を探しているところへ突然声をかけられ、私はびっくりして危うく果物を落としそうになった。……あれ? さっきも同じようなことがあった気が……。
振り向いて見ると、倉庫の入り口に手をかけて立っている斎藤氏の姿。
まったく、もう! なんでこの人、気配を感じさせずに近づいてくるの? 忍者? 忍者なの? フルーツ忍者?
「予定は……特にありませんが……」
彼氏に振られたばかりですので、予定もなにも。当分はヒマを持て余す身です――なんて言ったら、斎藤氏の毒舌レパートリィを増やすだけだろうなぁ。
「よろしい。では、仕事が終わったら食事を一緒に……。――嫌か?」
無意識のうちに、イヤそうな顔をしていたのかもしれない。斉藤氏がそう聞いてきたので、私は慌てて首を横に振る。
「い、いえっ。――あの、晩ご飯をマネージャーとご一緒するってこと、ですか?」
「そうだが?」
「ふたりで……?」
「そうだと言っている」