フルブラは恋で割って召し上がれ
まっすぐに見つめられてそう言われ、胸がドキンとなってしまう。
恋愛感情抜きだとしても、どストレートに「君を守る」ってイケメンに言い切られちゃったらトキめくのも仕方ないよね? うん。社員とか労働とか、恋愛には必要のないワードがてんこもりだとしても。
「……大事な、社員……ですか」
照れくさいような、残念なような、そんな気持ちが入り混じったトーンの声で、思わずそう聞いてしまった。
「とてもね。――早く食べないさい。せっかくの料理が冷めてしまう」
とてもね、の声音までポーカーフェイスと同じく感情が読み取れない。
さっきまでは飲み込むたびにため息を作っていたメインディッシュ。今度はなぜか、一口食べるごとに心臓の音を大きくしていくような気がしてならなかった。
食事の後、マネージャーはアパートまで送ると言ってくれたけれど、まだ時間も早いし寄りたいところもあるからと言って電車で帰ることにした私。駅で電車を待つ間に、和也にメールをしてみた。
ちゃんと和也の話を聞きたい。
もし別れるとしても、今までありがとう……って伝えたい気持ちがあるから。
今から和也が会ってくれるとしたら、ここからなら電車を乗り継いでも30分くらいで和也のアパートに行ける。
メールの返事を待って、電車を何本か見送った。ニットのアンサンブルだけじゃ夜の冷たい風は防ぎきれなくて、どんどん体が冷えてしまう。
迷惑といった筈です
待ちわびて、待ちわびて、やっと届いたのはたった一行のメール。
「ほんとに、終わっちゃった……」
ぶるっと小さく身震いして夜空を見上げても、月も星も見えなくて。それが一層、ひとりきりになった瞬間を迎えるのに相応しいような気がしてしまう私だった。