フルブラは恋で割って召し上がれ
「なに? やっと別れたの?」
次の日、友達に誘われて久しぶりに飲みに出掛けた私。
乾杯のあとに、和也と別れたことを報告するとあっさりとそう言われてしまった。
あっという間にジョッキをあけてしまった彼女の名前は高倉(たかくら)いずみ。私よりふたつ年上で元の職場の同僚。
仕事ぶりは冷静沈着。三歩下がって社長を立てつつも、その実、巧妙に手のひらの上で転がしているという上級テクニックの持ち主。
物言いはズバッと歯に衣を着せないこともあるけれど、面倒見のいい姉御肌で社員の男女問わず彼女を慕っている人は数多いんだよね。
「もぉー、傷口に更に塩を塗りこむようなこと言わないでよぉ」
ジョッキを持ったまま、私は居酒屋のテーブルに突っ伏してしまう。いじけた私におかまいなく、いずみは塩味の効いた焼き鳥に歯を立てうると、グイッと串を横に引いて豪快に食している。
「私、何年も言ってたじゃない。あんな男とは早く別れろって。いいのは顔だけじゃない。アパートの家賃滞納して追い出されたときは杏花のとこに居候してた時期もあったし、甲斐性ないくせに浮気はするし……」
生中のお代わりを受け取ったいずみは、そのままなにかを考えこむように黙ってしまった。
「どしたの?」
「――最後に会ったのが先週の金曜って言ったよね?」
「うん。それで、絶縁メールが来たのが昨日の朝」
「だからか……。まったくわかりやすい奴。今度、しょーもない企画書出したり提出が遅れたらねちっこく言葉責めしてやるわ」
眼鏡の奥で目を光らせて、ニヤリと笑ういずみにビビりながら私がその言葉の意味を尋ねると、意外な答えが返ってきた。――ううん、もしかしたら、心のどこかでそれは予感していたことかもしれない。