夢で逢いましょう
駅を出た後、スマホにブクマしておいた地図を開いて目的地の会社までのナビをスタートさせる。これで迷子の心配になるないし、マップの下に表示されている所要時間を見ても余裕で到着出来る。
「神さまへのお願いが効いたのかな? お天気もいいし、何もかもうまく行きそうな気がするっ」
空を仰いで神さまに感謝した後、私は浮かれ気味の足取りで目的地への一歩を踏み出した。
――そして、歩くこと10数分……。交差点で信号待ちの間にスマホでルート確認をしていた私の眉間はこれ以上はないんじゃないかって位に寄せられていた。
おかしい……、絶対におかしい。さっきアプリを立ち上げた時は、5分で会社に到着する筈だったのに……。画面上には未だに到着地を示すピンが現れてこない。
私の歩く速度がそんなに遅いのかとも思ったけれど、周りの歩行者と同じ位の速さだと思うし、赤信号にあったのもさっきの一回だけだったし……。所要時間の倍以上の時間がかかっているのって、さすがにおかしいよね?
このままナビの通りに歩いていたら遅刻しちゃう! と、慌てて側にいる人に道を尋ねようと顔を上げたその時、
「――あれ? この道……」――って思わず声にしちゃっていた私。
そして、妙に見覚えのあるこの交差点がどこなのか理解した瞬間に私は絶句してしまう。
いつも買い物していたコンビニ。以前バイトをしていた本屋さん。お気に入りの雑貨屋さんに、そしてそして……美奈子と出会った喫茶店。
え? なんで? どうして?
ナビの示す通りに歩いていた筈なのに、なんで前に住んでいたアパートの近くに来ちゃってるんだろ?
前のアパートっていうのは、もちろん、アレ。幽霊騒ぎで逃げ出したあの曰く付きのアパート。
会社情報に載っていた住所は確かに同じ区だったけれど、こんなに近くだったっけ?
ナビが変なルートを選んですごく遠回りしちゃったのかな? って色々考えてみたけれど、今はそれよりも面接優先。これから人生賭けた勝負に向かうってときに、縁起の悪いことは極力回避したい。
「もぉっ! さっき神さまにお礼いったばかりなのに! やっぱり不幸のどん底からは這い出せない運命なのっ!?」
自分の運の無さを嘆いたその時、私は目の前に信じられない光景を見て思わず頬をつねってしまった。