夢で逢いましょう
「――痛っ! これ……夢じゃない、よね……?」
ゴシゴシと目を擦ってから、目を凝らして前方の一点に意識を集中する。横断歩道の向こう側から歩いてくる人! 髪型といい髭の生え具合といい背格好といい、夢の中のあの人にそっくり。
――あの人だ! って思った瞬間に全身がキュンって熱くなるのを感じた。途端にドキドキと早まる鼓動。きっと頬も真っ赤になっていると思う。
私はスマホをバッグの中に乱暴にしまい込むと、彼を見失わないようにしっかりと目で追い始める。
どうしよう、どうしようっ! すれ違う時に話しかけていいものかな?
でも、「夢であなたに逢いました」って突然言われても不審者にしか思われないような気も……。
夢の中での彼の声やめくるめくえっちなシーンを頭の中の大スクリーンに映しながら、なんとか彼に自然に話しかけるシチュエーションを考えまくる私。
「あ……」
この展開は予想していなかった。
交差点の角にあるカフェの前に立っていた女の人が彼の方に手を振って近付いていくのを見て、私の脳内スクリーンに物凄い速さで緞帳が降ろされる。
まっすぐな長い黒髪、モデルさんみたいな細身のスタイル。あの甲の高さは一体なに? って思う位の美脚。顔は良く見えないけれど、眩いほどの美人オーラを感じてしまう。
「そうだよね……、あんなカッコいい人に彼女がいないわけないもんね……」
ここが自分の部屋の中だったら不貞寝決め込むところだけれど、天下の往来だもん。彼と美人さんが肩を並べて角を曲がり歩いていくのを、私は頭が飽和状態のままで見送ることしか出来なかった。
「――面接、いかなきゃ……」
気持ちを切り替えるためにショルダーバッグの肩紐を掛け直し、しょんぼり成分でいっぱいのため息をついた時、私はある事に気がついた。
――美人さんが、歩きながらこっちを振り返って見ている。そして、ウィンクと一緒に軽く手招き。