夢で逢いましょう
 
 え? 今のって、私に? 

 信号待ちをしている周りの人を見渡してみたけど、美人さんに反応している様子の人は誰もいなくて……。

 私を呼んでいたの……かなぁ? 
 でも、どうして?

 クエスチョンマークでいっぱいの頭の中で、二人の後をついて行くか、行かないかの二択が天秤に掛けられている。どちらかと言うと、『行かない』の方に傾きが大きくなっているのは、二人の向かった方に私が前に住んでいたアパートがあるから。

 信号が変わって周りの人が横断歩道を歩き出しても私はその場に立ちすくんでしまっていた。面接に行かなきゃでしょ? って天使の囁きと、彼が気になるんだろ? 追いかけていけよって悪魔の誘惑の同時攻撃。

『結衣』――その時、今までにない位鮮明に夢の中の彼の声が頭の中に響き渡った。
 弾かれたように顔を上げると、歩行者用の信号が点滅を始めたところ。

 私は走りだしていた。
 履き慣れていないリクルート用の黒いパンプスで全力疾走開始。

 ルート変更! 目標、彼と美人さん。

 走り出した瞬間に変動した私の優先順位。面接よりも、夢のあの人。
 もう二度と傍にも行きたくないって思っていたアパートよりも、夢のセクシー男性!

 これでいいのか? って思いながらも止まることなんて考えていない自分。
 何かの不思議な力に導かれているような展開だけれど、これを逃しちゃいけないって気持ちで私の中はいっぱいになっていた。




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