腹黒王子と秘密の契約
「お待ちしておりました、シルヴィア様」

ノルディア城の玄関ホールでは、数人のメイドがシルヴィアの到着を待っていたらしい。

深々とお辞儀をするメイド達に迎えられて、シルヴィアは笑顔で挨拶を返している。

そしてメイドに促された従業員達は、早速荷物をどこかへ運び始めていた。

リリーは邪魔にならないように、隅の方でその様子を静かに眺めている。

するとメイドと何か話をしていたシルヴィアに呼ばれて、リリーは慌てて駆け寄った。

「リリー、こちらのメイドさんに事情は説明したわ。
あとの詳しい話は、リリーから話してみてね」

「えっ、はい!」

本当にすぐ話を通してくれたらしく、リリーは目の前にいるメイドに視線を移す。

迎えに出ていたメイドの中でも一番若そうなそのメイドも、リリーを何者なのかと不思議そうに見つめている。

「わたしはもう行かなくてはいけないの。
落し物、見つかるといいわね」

「シルヴィア様…
本当に、ありがとうございました…」

優しい笑顔を残して去っていくシルヴィアを見送りながら、リリーの胸は小さく痛んだ。

何を失くしてしまったのかを、聞かれなかったことにほっとしている自分がいる。
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