腹黒王子と秘密の契約
応接間のような役割の部屋なのか、城内のある一室にリリーは通されていた。

話を聞いたメイドは「確認して参ります」と言い残し、どこかへ行ってしまっている。

部屋には座り心地の良さそうな立派なソファがあるけれど、ひとり残されたリリーは落ち着かない様子で部屋の中を歩き回っていた。

もうだいぶ時間が経っているけれど、メイドはなかなか戻ってこない。

「やっぱり、見つかってないのかな…」

心の中の不安な気持ちが、口をついて出た。

もう何度目かもわからない、ため息ばかりがこぼれる。

本当は城中を探して回りたいのを必死に堪えて、リリーは窓辺に立つと視線を上げた。

窓から見える小さな中庭の向こう側は、美しい彫刻が施された柱が並ぶ回廊になっている。

「あれ?…」

何気なくただその美しい景色を眺めていると、その柱に寄りかかるように誰かが佇んでいることに、リリーはその時気がついた。

陽の光を受けて、銀色の髪が煌めいている。

珍しいその髪の色も、不思議と目を引く雰囲気のあるその姿も、昨夜見たばかりだ。

リリーは窓を開けると、中庭に繋がる造りになっているテラスへと足を踏み入れた。
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