腹黒王子と秘密の契約
陽の光のせいだけではない、自由に飛びまわる鳥の姿が眩しくてユアンは目を細める。

これから部屋に戻れば、王都での歓迎パレードの準備がすぐに始まるだろう。

今だけは、少しの間でも何も考えずにいたい。

そんな時ふと、誰かの視線を感じたような気がして、ユアンは辺りを見渡した。


『なんで…』


小さな中庭の向こう側で、同じように驚いた顔でこちらを見ている人物を見つけ、ユアンは思わず呟いていた。

昨夜、煩いパーティー会場の片隅で、唯一の安らいだ時間を与えてくれた。

その相手が、なぜか今また目の前にいるのだ。

今まで向かいの部屋の中にいたのか、背後の窓は開け放たれたままになっている。

大きな栗色の瞳を瞬かせて、テラスの手すりへと身を乗り出している。

ユアンは気づくと中庭に歩を進めていた。


『驚きました…また、お会いしましたね!』


そう言って嬉しそうに微笑む彼女は、昨夜のパーティーで会ったドレス姿とはかなり印象が違う。

『リリー・キャロル…』

『わ、名前も覚えててくれたんですね』

ユアンがフルネームを呟くと、風になびく柔らかそうな髪を抑えながらリリーは笑った。

その笑顔を見ただけで、重く沈んでいた心がなぜか軽くなる。
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