腹黒王子と秘密の契約
『誰かって…ユアンさん、じゃないんですか?』

『いや、そういうことじゃなくて…』

不思議そうに自分を見つめるリリーに、ユアンはどう答えればいいのかわからなかった。

なんとなく、リリーにはギルト王国の国王だということは知られたくない。

もし気づかれてしまったら、こんなふうに気安く会話することもできなくなるかもしれない。

『ユアン…』

『え?』

『ユアン、と呼んでくれ。
年だって、きっとたいして変わらないだろ?』

ユアン自身も、どうしてそんなことを言ったのかはわからなかった。

昨日に続いて今日会えたのも偶然で、もう二度と会うこともないかもしれない。

それでもリリーにはそう呼んでほしい、そう思ったのは確かだ。

『あ、はい。…わかりました』

『敬語も不要だ』

『う、うん。
じゃあ…ユアンもわたしのこと、リリーって呼んでね!』

『ああ、わかった…』

身内以外に名前を呼び捨てにされることは、もしかしたらはじめてかもしれない。

なんだか少し気恥ずかしいけれど、リリーと話していると荒んだ心が癒されるような気がする。

それがなぜかはまだわからなかった。
< 110 / 141 >

この作品をシェア

pagetop