腹黒王子と秘密の契約
しばらく他愛もない会話を続けていた。

よく笑う表情豊かなリリーと話していると、ユアンも自然と笑顔になることがあった。

その様子を少し離れたところからずっと見ていた護衛達は、驚きを隠せず顔を見合わせている。

もうずいぶん長いこと近くで仕えているけれど、ユアンの笑顔など見たこともなかったからだ。

そして回廊の柱に身を隠すようにして、二人を見つめている者がもうひとりいる。

主人に命じられ、ユアンの後をつけていたトーマスだ。

「あの少女は…」

ユアンと向き合い笑顔で話しているリリーを見て、トーマスは小さく呟いた。

つい昨夜会ったばかりなのだから、少し雰囲気は違っているけれどよく覚えている。

気難しそうなユアンが、穏やかに微笑んでいることにも少し驚いた。

「これは、おもしろいものが見られたかな」

ただの見張り役のつもりが、思ってもみなかった場面に遭遇することができた。

しばらくそのまま観察していたトーマスは、ちょうどその場を通りかかったメイドを引き止めると近くへ呼び寄せる。

「あの女性は誰かのお客様なのかな?
君、知ってる?」

「は、はい」
< 111 / 141 >

この作品をシェア

pagetop