腹黒王子と秘密の契約
柱に隠れたまま見つからないようにしているため、小声で話すトーマスとの妙に近い距離にメイドは頬を赤く染めている。

クリフォード程ではなくても、側近として王子とよく二人でいることの多いトーマスは、メイド達の中ではかなり人気がある。

クリフォードの隣に並んでも見劣りしないスタイルと容姿に、若いメイド達が中心となって騒いでいるのだ。

「あの方は…先ほど、シルヴィア様と一緒に来られたんです。
昨夜のパーティーで、イヤリングを片方だけ失くされてしまったらしく…
見つかっていないか確認している間、あの部屋でお待ち頂いています…」

「シルヴィア様と?」

「は、はい」

「あの女性とシルヴィア様とのご関係は?」

「いえ、私も詳しくは…
ただ、シルヴィア様から直接お話を伺ったので…」

「そうか…」

その件の対応中らしいこのメイドは、たった今リリーの待つ部屋へと戻るところだったようだ。

話を聞いたトーマスは、再びユアン達を盗み見ながら何かを考えていたけれど、すぐに表情を崩した。

「興味深いな」

「え?…」

なぜか楽しそうなトーマスを、メイドは不思議そうに見上げている。
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