腹黒王子と秘密の契約
「いや、気にしなくていいんだ。
教えてくれてありがとう。
仕事の邪魔をして悪かったね。
もう戻っていいよ」

「はい…」

よくわからないけれど、憧れの存在であるトーマスに感謝されてメイドも少し嬉しそうだ。

「…ああ、ちなみにそのイヤリングは見つかったのかな?」

「いえ、今のところ見つかっていないようでした」

「そうか…
わかった、ありがとう」

歩き出そうとしていたメイドはそう答えて、ぺこりとお辞儀をしてから立ち去っていく。

そしてその後ろ姿を見送ると、トーマスは柱に身を隠したまま、スーツの内ポケットから携帯電話を取り出した。

「一応、すぐ報告しておくか」

クリフォードが昨夜城内で見つけたという少女とユアンには繋がりがあるのか。

まだわからないけれど、クリフォードもきっと興味を示すだろう。

呼び出しのコール音が鳴りはじめて、電話はすぐに繋がった。

「クリフォード様、私です。
いえ、問題はないのですが、おもしろいものを目撃しまして___」

監視されていることなど気づくはずもないユアンは、今もリリーと楽しそうに笑っている。

それは普段大人びて見えるユアンの、十六歳の青年の年相応な笑顔かもしれなかった。
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