腹黒王子と秘密の契約
『ユアン!』

リリーの呼びかけに立ち止まりはしたものの、ユアンは振り返らなかった。

そのかわり、ユアンの後ろに付き歩き出していた護衛達がぎょっとしてリリーを見ている。

何か言いたかったことがあったわけではない。

なんとなくユアンの表情の変化に不安を覚えたけれど、何を言えばいいのだろう。

『あ、あの…ユアン、またね』

結局、口から出てきた言葉はそれだけだった。

そのまま行ってしまうかと思ったユアンは、意外にもその場でゆっくりと振り向いてくれた。

リリーが笑顔でひらひらと手を振ると、その陶器のような白い頬がみるみる赤くなる。

ユアンは『ああ』と小さく返事をしただけで、赤くなった顔を隠すように俯くと、足早に去っていってしまった。

一部始終を見ていた護衛達も、慌ててその後を追いかけていく。

突然の赤面の理由もわからなかったけれど、謎の多いユアンの小さくなる背中を見つめながら、リリーは首を傾げていた。

「ユアンて、いったい何者なんだろう…」

いつも護衛を引き連れているなんて、明らかに上流階級の人間である証だ。
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