腹黒王子と秘密の契約
アランの言う“あの男”というのは、最近リリーに会いに毎日のように店に現れるようになっていた客のことだ。

貿易会社の御曹司だというその男は、上等そうなジャケットに身を包み、いつも大きな花束を持ってリリーの前に現れる。

店に来られない日でも、『可愛い君へ』というメッセージカードが添えられた大量の花が必ず届けられ、マーカスとヘレンも最初はかなり驚いていた。

そしてつい先日、仕事を終えたリリーが店を出ると、大量の赤いバラの花束を手にした男にディナーに招待されたのだった。

あまりに突然の誘いに困惑したリリーも、男に「君が来てくれないと、せっかくのディナーが無駄になってしまうよ」と悲しそうに言われれば「じゃあ…」と首を縦に振るしかない。

男はその返事をとても喜んで、嬉しそうにリリーの腰に手を回すと自慢の高級車へとエスコートする。

そのときだった。

「おい」

地の底から響くような低い声に呼び止められて男とリリーが振り向くと、そこに立っていたのはいつにも増して機嫌が悪そうなアランだった。
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