腹黒王子と秘密の契約
「ケンカなんてしてないだろ。
俺は暴力なんて振るってない」

「なんだ、それ」と面倒そうに言って、再び歩き出したアランをリリーは追いかける。

アランの長い足で歩く速度に合わせているので、リリーは少し小走りだ。

「だって、アランたら、いきなり胸ぐら掴んだりして…すごい驚いたんだよ」

「そんなことしたかな」

「もう!アランてば!」

とぼけるアランを咎めるように、リリーはアランの腕を軽く叩く。

「アランらしくないよ、あんな乱暴なこと…
怖い顔して何か言い合ってたけど何を話してたの?
そのあと、お客さんは青くなって慌てて帰っちゃうし。
それからお店にも来なくなっちゃったんだよ?」

「…お前は気にしなくていいんだよ。
それとも、せっかくの高級ディナー食いそこねて怒ってんのか?」

「む。そうじゃないもん。
美味しいご飯なら、いつも『キッチン ヘレン』で食べれるんだから」

意地の悪い笑顔を浮かべるアランに、リリーはつんと顔を背ける。

ちょうどそこでふたつ目の曲がり角を曲がると、白い外観のアパルトマンが見えてきた。
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