腹黒王子と秘密の契約
白い壁に美しい装飾が施された玄関が引き立つそのアパルトマンは、築年数はかなり経っている古い建物ではあるけれど、そのぶんどこか歴史を感じさせる重厚感がある。

リリーが特に気に入っているのは、小さいながらもバルコニーが付いていることで、そこで休みの日の朝にゆっくりお茶を飲みながら、季節ごとに合わせた植物を育てることに幸せを感じていた。

玄関から中に入り、らせん階段を上って二階の一番奥がリリーの部屋だ。

そして、その向かいがアランの部屋。

同じ学園に通ってはいても、学部も違う二人の共通点などない。

そんなアランとリリーがこうして親しくなったのも、同じアパルトマンの向かいの部屋に住んでいるという偶然があったからだった。





「リリー」

お互いに玄関の前まで来ると、バッグの中から部屋の鍵を探して背を向けて立つリリーにアランは声を掛けた。

機嫌をそこねていたリリーも、無視をすることはできずに渋々振り返る。

口をへの字に曲げたリリーの不満そうな顔を見て、アランは観念したように息を吐いた。
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