腹黒王子と秘密の契約
パーティー会場の片隅で、お互い微妙な距離をとったまま、異国の言葉で会話する光景は少し異様にも見える。

『それなら、暇潰しの相手になる。
乾杯でもするか』

『え?…あ、はい』

リリーの返事を聞いて、その青年はやっとリリーのすぐそばまで来ると、持っていたグラスを掲げるように持ち上げてほんの少しだけ微笑んだ。

それに合わせて、リリーも慌ててグラスを少し持ち上げる。

乾杯をして目の前でワインを飲む青年を、リリーはじっくりと観察していた。

まだ幼さがある顔立ちをしていると感じたけれど、やはりかなり若そうだ。

背はそれほど高くないけれど、ライトグレーのタキシードをサラッと着こなして、なんだか気品があるというか不思議なオーラがある。

『飲まないのか?』

『あ…飲みます』

これ以上飲むのは危険な気がするけれど、仕方がないのでリリーもまたグラスに口をつける。

『語学の勉強をしているってことは、学生?』

『はい。通訳になるのが夢で、ノルディア王国には留学で来ているんです』

『へぇ…』

歳が近そうなせいもあるのか、リリーは気づくと自分のことばかりをたくさん話していた。
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