腹黒王子と秘密の契約
『ユアン様、またおひとりでいなくなられては困ります!
クリフォード王子もお待ちになっていらっしゃったのですよ!?』

パーティー会場を後にしてノルディア城の廊下を歩きながら、ユアンを探し回っていた紳士、カミルは困り果てた様子で咎めている。

『叔父上がおられれば、別に俺がいなくても大丈夫でしょう』

『なにを仰るのです!
そんなことはありません!』

『そうですか?
自分の存在なんて、ただの飾りでしかないと思っていましたけど』

ユアンの冷めきった言葉に、カミルは凍りついたような表情で足を止めた。

『…ユアン。
本気でそんなことを思っているのか?』

背後から聞こえた悲しそうな声に、ユアンも背を向けたまま立ち止まる。

『自分の立場はわかっています。
すみませんでした』

それだけ言うと、何かを振り切るように再び足早に歩き出した。

護衛の男達がその後を慌てて追いかけても、カミルだけはその場から動くことができない。

『どうすればいいんだ…姉さん』

頼りなげな声で呟いた言葉は誰にも届くことはなく、遠ざかっていくユアンの背中を、ただ複雑な表情で見つめることしかできずにいた。
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