腹黒王子と秘密の契約
「あの男の子、何者だったのかな…」

結局ユアンと呼ばれていた青年のことは何も思い出せないまま、リリーはあれからひとりでパーティー会場を抜け出していた。

ひとしきりクレアを探してみたものの、人の多さに見つけることができず、ついに酔いも回り慣れないヒールを履いた足も限界を迎えている。

酔って火照った身体を冷まそうと、どこか風に当たれる場所はないかと城内をさまよっていた。

「勝手に歩き回って怒られるかな…
でももう飲めないし、靴も脱ぎたいし…」

ひとり言を言いながら、もうかなりの時間フラフラと歩き続けている。

「やっぱり戻ったほうがいいかも…
クレアももう探してるかもしれないし」

来た道を振り返って考えてみるものの、そのときリリーは大変なことに気がついた。

「どっちから来たんだっけ…」

辺りを見回してみても、長く続く廊下に人気は全くない。

「ウソ…まさか迷子?…」

熱をもった赤い頬が、一気に青ざめていくような気分でリリーは立ち尽くす。

とにかく戻らなくては、と踵を返し急いで歩き出すけれど、ますます何処にいるのかわからなくなっていく。
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