腹黒王子と秘密の契約
クレアに連絡をしようにも、携帯電話は車の中に置いてきた荷物の中だ。

どうすることもできず、ほとほと困り果ててしまった。

「どうしよう…」

慣れない格好と緊張続きで、本当ならもう一歩も動きたくないリリーはその場にうずくまってしまう。

「もうやだ…」

身の程をわきまえず、お城のパーティーに出席した自分への罰が下ったのかもしれないとさえ思えてくる。

これからの留学生活もどうなるかわからないし、楽しみにしていたパーティーも疎外感を味わっただけかもしれない。

今の状態といい、留学のことといい、先の見えない不安に押し潰されそうで涙が滲む。

「やっぱり飲み過ぎたみたい。
わたしったら、なに泣いてるんだろ」

リリーは瞳の縁の涙をぐいっと拭うと、少し落ち着こうとゆっくり深呼吸してみる。

「あ…」

そのとき、心地よい風がリリーの緩くまとめられた髪の後れ毛をふわっとなびかせた。

優しい風を肌に感じて、目を閉じる。

引き寄せられるように風の流れを辿って行くと、外に出られそうな扉が開いているのを見つけ、リリーはゆっくり近づいていく。
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