腹黒王子と秘密の契約
それでも毎月送ってくれる少しの仕送りでは勉強するための生活もままならず、けれど特に裕福でもない実家にこれ以上頼ることもできない。

両親を心配させることはしたくないリリーは、手紙にも充実した学園生活を送っているということしか書けなかった。

そんなときたまたま訪れた、ここ『キッチン ヘレン』で気の良い仲良し夫婦と出会い、雇ってもらえることになったのだ。

店主のマーカスとその妻のヘレンは、異国の地からやってきたリリーの身の上話をとても親身に聞いてくれた。

今まで仕事でない日も度々ご飯をご馳走してくれたり、いつも応援してくれる。

感謝してもしきれないほどお世話になっている二人に、リリーもこれ以上面倒をかけたくない。

「そんな遠慮なんてしなくていいのよ〜。
本当にリリーには私達も感謝してるんだから」

「ああ、リリーがこの店で働いてくれるようになって、客も増えたんだ。
可愛い看板娘目当ての客がたくさんね」

ウェーブのかかった赤毛とそばかすがチャーミングなほんわかした雰囲気のヘレンと、短い茶髪と顎に生やしたヒゲがダンディなマーカスは嬉しそうに仲良く笑い合っている。
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