腹黒王子と秘密の契約
リリーは夢を見ていた。

ふわふわと温かいものに包まれた、幸せな気持ちになる夢だったような気がする。

ゆっくりと瞳を開くと、まだはっきりしない思考のまま、視線の先の天井にある照明の明かりを眺める。

ずいぶん長く眠っていたような、心地よい気だるさに包まれながら、リリーはサラサラとした気持ちのいい寝具の感触を肌で感じていた。

自分の部屋のベッドよりかなり寝心地のいいその中で、リリーは微かに身じろぐ。

少しずつ覚醒しはじめてから起き上がると、そこは見慣れない部屋の中だった。


「…お目覚めかな？」


知らない場所で目覚めたリリーがしばらくぼんやりしていると、突然背後から声を掛けられる。

甘く優しい声のする方へ振り向くと、リリーはまさに呼吸も忘れるような驚きで固まった。

渋みのある革張りのソファーに座っていたその人物は、読んでいた本を閉じるとリリーに向かって微笑む。

「驚いたよ。あんなところで眠っているから」

その言葉を聞いて、リリーはやっと自分があの薔薇の庭園で眠ってしまったことに気づき、激しく動揺して青ざめる。
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