腹黒王子と秘密の契約
「ま、待ってくださいっ!」

真夜中にもかかわらず、慌ててかなりの大声で呼び止めていた。

隣にいるクレアとアラン、そして執事のトーマスまでも目を丸くして驚いている。

「ご、ごめんなさいっ…」

注がれる視線にリリーが焦っていると、その場で足を止めたクリフォードも不思議そうな顔で振り返っていた。

「あの…本当に、ありがとうございました!」

とにかく感謝の気持ちを伝えようと、リリーは一歩前に踏み出すと深々とお辞儀をする。

そして、ゆっくりと顔を上げると、碧い瞳を優しく細めたクリフォードと視線が交わった。

リリーに微笑みかけたクリフォードは、そのまま何も言わずに立ち去っていく。

激しい胸の鼓動を感じながら、リリーはもうすっかり酔いが覚めたはずの頬をまた赤く染めて、遠ざかるクリフォードの背中を見つめ続けていた。





「リリー?」

「…え?」

クリフォードが長い廊下の先に見えなくなっても、いつまでも動かないリリーにそっと声を掛けたのはクレアだった。

その様子を黙って見ていたアランも、短く言い放つ。

「帰るぞ」

「それでは、こちらの通用口からどうぞ。
ご案内いたします」
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