腹黒王子と秘密の契約
あそこまでプレッシャーをかけられれば、さすがに昨日の今日でまた逃げ出すことはないだろう。

昼から王都で行われる歓迎パレードの様子は、ノルディア王国内だけでなく世界中のメディアで報道される。

本番直前にいなくなられては困るのだ。


「失礼致します。
クリフォード様、お呼びでしょうか」


メイドに頼み呼び寄せてまもなく、トーマスはクリフォードのいるダイニングルームに現れた。

細身で背の高いこの男は、ノルディア城の執事であり、クリフォードの秘書でもあり、側近として普段からなんでもこなす。

代々ノルディア王家に仕える家系に生まれ、同い年のトーマスとクリフォードは幼い頃からのお互いをよく知っている関係だ。

そのため、クリフォードはトーマスに絶対の信頼を寄せている。

「ああ、トーマス。
ちょっと、ユアン王陛下のことでね」

「ユアン王陛下が何か?」

「念のためなんだが、少しの間見張っていてほしいんだ。
もちろん、気づかれないようにさり気なくね」

「なるほど。かしこまりました」

詳しい説明や理由を話さずとも、全てを理解したらしいトーマスは、胸に手を当てるように礼をしながら答える。
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