おいてけぼりティーンネイジャー
放課後、暎さんからの着信を受けた。
今日は東北……あと、数時間でコンサートかな。

『まゆ先輩、元気だった?』
「はい。凛々しいヒトですね。女性が憧れるタイプの美人さんですかね。」
『昔から面倒見もよかったし、教師は天職だろうな。』
「暎さんの天職はミュージシャン?私は、何ができるんやろう……」

勉強以外の特技がない私は、ちょっと劣等感をこぼした。
電話の向こうで、暎さんが小さく笑ってた。

『何でもできるよ。でも、やりなくなきゃ、何もしなくてもいいんだよ。知織がやりたいことを好きなだけ追求すればいい。やりたいことが見つかるまでは、焦らず勉強と読書とだけしてたらいい。あ、どっちにしても、俺のことは、かまってね。』

……甘やかされてるなあ、いつもながら。
暎さんという強烈な個性はいつも太陽のように眩しくて、私の暗い心を照らしてくれた。

一旦、暎さんのお部屋に寄ってから帰宅。
「ただいま~。おばあちゃん、今日も暑いよ~。ご飯の前にシャワー浴びていい?」
「おかえり。今日は珍しいお客さんが来てるわよ。先にご挨拶してからになさい。」
祖母がニコニコと迎えてくれてそう言った。

お客さん?
私の知り合い?

祖母に背中を押されて応接間に行くと、ソファで祖父と歓談していたのは、平原まゆ先生!
「あら、おかえりなさい。遅かったわね。どこ寄り道してるの?」

平原先生にそう言われて、私はポカーンと口を開いてしまった。
「……家庭訪問?……ですか?」

祖父がカラカラと笑った。
「まゆちゃんだよ。知織のお母さんのいとこの。えーと、ばあさんの兄さんのお嬢さん。」

は!?

「……母のいとこって、平原先生だったんですか!?え!でも、オリンピックに出場したって……うち、全く話題になってなかったんですけど……」
祖父母と平原先生は顔を見合わせた。

「裕子は浮き世離れした生活してたからね~。騒ぎたくも騒がれたくもなかったんじゃない?」
母のことを呼び捨てにする平原先生に、本気で驚いた。

「知らんかったです……てか、もっと早く教えてくださったらいいのに。私、もっと早く先生とお話してみたかったんです。」
……暎さんのこと、聞けるかも!

「あは。ありがとう。喜んでくれてるところ、ちょっと申し訳ないんだけどさ~、これ……」
苦笑しながら、平原先生が取り出したのは……え?

ピンク色の四角い小型の機械。
「防犯ブザー?」

平原先輩は、言いにくそうに言った。
「まあ、そんな感じ。GPS機能もついてる防犯ブザー?」

GPS!また!?

……そんなに私、危なっかしく、どこかへふらふらと迷子になっちゃうように見えるんだろうか。
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