おいてけぼりティーンネイジャー
『……今からじゃ、ろくなホテルとれないよ。』
「かまいません。」
『俺がやだよ。』

これだけ水を向けてもその気にならないのか。
さすがに私は、ちょっと拗ねた。

「……嫌なのは、本当に場所の問題ですか?単に私を抱きたくないだけなんじゃないです?そんなに魅力ないんでしょうか。いっそ、色気が出るように、言い寄ってくださるかたがたと多少遊んできましょうか。」
たたみかけるように一気にそう言った。

少しの間を置いて、暎さんがため息ついた。
『怒るよ。』

……もう怒ってるもん。

「わかった!もういい!暎さんなんか嫌い!」
私はそう言って、電話を切った。

電源も切ってしまって、その夜は泣きながら寝てしまった。
最悪だ。


翌朝、バリバリのまつげと、腫れたまぶたに、自分で驚いた。
思えば、暎さんと出会って約2年。
こんな風に喧嘩したのは、はじめてのことだ。

ぬるま湯のような、幸せな恋をしてきたんだなあ……と、改めて気づいた。
氷でまぶたを冷やして、何とか登校。

1日がすごーく長く憂鬱に感じた。
こんな時、由未ちゃんがいたらなあ。
相談に乗ってくれただろうに。

あ、もっと適任者がいた!

放課後、いそいそと帰宅すると、携帯電話の電源を入れた。
暎さんから何度も連絡があったようだが、全て無視して、私は新しいメールを作成した。

<ご無沙汰してます。知織です。お元気ですか?大学生活は楽しいですか?あのー、お時間ある時、いつでもけっこうですので、相談に乗っていただけませんか?>

ほどなく電話がかかってきた。
由未ちゃんのお兄さんからだ!

『知織ちゃん?久しぶり。どした~?一条氏に浮気でもされたんか?』
「それ以前の問題です。未だに、キスもないんです!私、そんなに魅力ないんでしょうか。」

電話の向こうで、不思議なくぐもった音が続いた。
なんだなんだ?

『ごめんごめん。きわどそうな話みたいやし、独りになったほうがいいかと思って移動してきたわ。もう大丈夫やで。……あまり会えてへんの?』
「いいえ!暎さんがツアーで地方へ行く日以外は毎日会ってます。放課後、暎さんのお部屋で。なのに!手を出してもらえなくて……そりゃ私なんか、子供ですけど……」
泣けてきた。

『うーん、月並みやけど、一条氏が知織ちゃんを大事にしてる、って考えるのが一番自然な気がするけど。そんな風には感じられへんの?』

私は、ぐずぐずと鼻をすすりながら

「大事にはされてる、と思う~。でも、いつまでも子供扱いされてる気がして、嫌なの~。」
と、訴えた。
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