おいてけぼりティーンネイジャー
「俺も淋しいよ。でも来週、楽しみにしてるから。」
……私が会えなくて淋しくて落ち込んでると思ったんだ。

優しい……。
涙がこみ上げてきた。
やっぱり、好きだ。
暎さんが、好き。
今更、別れるとか、絶対無理。

黙って泣いてる私がよっぽど心配だったのだろうか。
暎さんは途中で車を止めて抱きしめてくれた。
「一緒に行こうか?……御両親に、挨拶しようか?」

本気でそう言ってくれてるのがわかって、びっくりして、さすがに涙も止まった。
……無理だ。
母の反応が怖い。

私は、ゆっくり首を横に振った。
「そんなことしたら、家から出してもらえなくなるかもしれませんよ?」

暎さんは、ため息をついた。
「……だよな。やっと16歳だもんな。
私は黙って曖昧にうなずいた。

「そうだ。これ、クリスマスプレゼント。」
暎さんが小さな箱を出してきた。

毎年、クリスマスにも誕生日にも、高価なものを準備しくれるけど……持ち帰るわけにいかないものばかり。
結局、暎さんのお部屋に保管してもらって、身に付ける機会もない。

「……持って帰れるもの?」
そう聞くと、暎さんは苦笑して首を横に振った。

「今回は俺とお揃い。本当は知織にはめててほしいけど、まだ当分無理そうだから、先に俺だけしとくね。」
そう言って暎さんが見せてくれたのは、金の細工モノの指輪。

「綺麗……」
繊細で立体的な模様が素敵だ。
よく見ると、葉っぱとお花と……王冠?

でも、これ、ファッションリングっていうよりは……結婚指輪っぽい。
ドキドキしてきた。

暎さんの指が、ひょいと指輪をつまみ上げて、自分の右手の小指にすっとはめた。
「素敵。いつもの指輪とのバランスもいいねえ。」 
そう言うと、暎さんはハッとしたように、慌てて指輪を抜いた。
そして、ずっとはめていた幅広のゴールドの指輪をも抜こうとした。

「え!何してんの!?抜かんでいいやん!大事な思い出なんでしょ!?」
暎さんはばつの悪い顔をしていた。
「……もういいかな、って。」
そう言って、ぐりぐり回して抜こうとしてる暎さんの手を抑えた。

「いい。それ、似合ってるから付けてて。」
「でも……」
「いいから。暎さんの過去の恋愛も罪も全部受け入れるって決めたから。そのままでいい。」
私の言葉は暎さんにどう聞こえたのだろうか。

「貸して。」
私は暎さんが今回作った指輪を受け取ると、暎さんの右手を取り、その小指に恭しくはめた。
「……ギター弾きにくいかなあ?」

そう聞くと、暎さんは胸を張った。
「いや。慣れてるから。俺も、する。」
そう言って、暎さんは私の左手の薬指に指輪をはめてくれた。

……うれしい……。
どうしよう、はずしたくなくなってきた。

「絆創膏貼っておいたらばれへんかなあ……」

暎さんは、くすっと笑って、もう一度私の左手を取った。
「そんなの怪しすぎるよ。ちゃんと部屋に置いとくから。はい、回収!」

有無を言わさず指輪を抜き取られてしまった。

あーあ。
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