おいてけぼりティーンネイジャー
5ヶ月ぶりに京都に帰ってきた。
「ただいまぁ……」

いつも通りに振る舞うつもりだったのに、母の顔を見ると……胸が痛んだ。
やっぱり、つらい。

「あらあら、どうしたの?」
帰るなり泣き出した私に驚いた母が駆け寄って背中をさすってくれた。

私は返事もできず、ただ、泣きじゃくった。

暎(はゆる)さんと一緒にいる時には、母と訣別しても暎さんと添い遂げるつもりだった。
でも、母を目の前にして、それがどれだけ残酷なことかわかった。

……私……どうしたらいいんだろう。


夕食はクリスマス仕様だった。
鶏の丸焼きじゃなくて、七面鳥の丸焼きにびっくりした。
それだけでお腹いっぱいになっちゃうよ……しかも鶏のほうがジューシーで美味しいし。
クリスマスケーキも3人でホールサイズ1つって!
多すぎる!

父も母も終始、笑顔。
私の帰宅を喜んでくれていることがヒシヒシと伝わってきた。
冬休み期間中はなるべく両親とすごそう、と心に決めた。


夜、久しぶりの自室で暎さんからの電話を受けた。
『ご両親、元気だった?』
さらりとそう聞かれて、ドキッとした。

「うん。父も……母も、はしゃいでました。明日は3人で父方の祖父のお寺にお墓参りがてらご挨拶に行く予定です。」
『……確かおっきいお寺なんだよね?』
「ええ。すごく厳かな空気なので、いつも緊張します。」
『素敵だね。……いつか、俺も連れてってね。』

また、そんなことを言う。
涙がこみあげてくるから、やめてぇ……。

「暎さん。」
『ん?』

「暎さん。」
『なに?』

「……暎さん……」
『……うん?』

「暎さんに、逢いたい。」
『……うん。あと4日。……俺も待ち遠しいよ。』

戯(ざ)れ言に付き合ってくれる暎さん。
恋しくて恋しくて恋しくて。
電話を切ったあと、ベッドに突っ伏していっぱい泣いた。


翌日は、雪がちらついていた。
観光客がごった返す坂道を車で登る。

「年の瀬でも観光客さん多いんやねえ。」
「逆に、年の瀬でお休みになるから増えるんちゃいますか?おひいさんもそうですやろ?」

……そっか。

「知織、元気ないみたい。夕べもあんまり食べなかったし……大丈夫?」
母に気遣われて、私は無理矢理笑顔を見せた。

「ありがとう。大丈夫。今夜は早寝するわ。」
脇の小道にそれると、先ほどまでの喧噪が別世界のようになる。

「こんにちは~。」
父が声をかけると、中から凜々しい青年僧が出てきて案内してくださった。
お庭の綺麗な茶室に通される。

程なく、戸籍上の祖父、つまり隠居した元貫主が入ってきて、お茶をたててもてなしてくれた。
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